本文へスキップ

Forest Instructor Association of Japan

宮城の海岸林防災林の復興状況と課題 5(最終回)

執筆:大友良三(宮城 7-0325)、相澤孝夫氏(宮城10-0685)

海岸防災林の復旧方法の決定

 
 海岸防災林は、震災により大きな被害を受け、宮城県の海岸について見れば、津波で流され、引き倒され、また、生き残ったがその後枯れてしまうなどにより、立木はほとんど残っていませんでした。
 これまで解説してきましたとおり、震災後の復旧工事は、防潮堤の構築と海岸林再生のための基盤整備から始まっています。基盤整備は、津波に耐えた樹木は、根の深さが2m以上あったので、地下水位から2m以上になるように盛土をしています。
 海岸防災林の復旧の考え方については、次のURLをご覧ください。
 http://www.rinya.maff.go.jp/j/tisan/tisan/pdf/kaiganbousairinsaisyuuhoukoku.pdf
 宮城県では北部はリアス式海岸で険しく平地が少ないため、防潮堤や海岸林の造成工事が遅れていますが、南部の海岸線は十分な林帯幅が取れるので工事が進み、植栽は2013年から始まっています。
 海岸防災林にはこれまで主にクロマツが植栽され、「白砂青松」と親しまれてきましたが、「マツは津波に耐えることが出来なかったので広葉樹を植栽すべき」という意見が一部からあり、実際に広葉樹を植えている自治体や団体もあります。
 震災後、海岸林再生の取組をどのように進めてきたのか追ってみました。
 仙台から南部の海岸線はなだらかで平坦です。しかし、地下水位が高く、海岸林のマツは根が浅いため津波で引き倒されました。そこで、地盤高を地下水位より2mほど高くする盛土工事をおこなっています。
根が浅く津波で倒れたマツ  
地盤の嵩上げ工事

 2013年に一部嵩上げが完成し、植栽が始まりました。林野庁及び宮城県の使用樹種は主としてクロマツを選定しましたが、岩沼市の千年希望の丘では広葉樹を植栽しています。
 千年希望の丘については、次のURLをご覧ください。
 http://www.city.iwanuma.miyagi.jp/kakuka/040300/sennnennkibounooka.html
 これは、植物生態学者の宮脇昭氏の指導の下に行っているもので、海岸林の再生とはかなり異なるものです。現地は海岸の汀線から500mほど内陸にあり、植栽箇所と汀線の間には林野庁や宮城県がクロマツを植栽した海岸林があります。
 しかし、今年で4回目の植樹イベントには12,000人もの参加者があったとあり、その注目度、集客力は目を見張るものがあります。
岩沼市が実施している千年希望の丘
広葉樹を密植 樹高1~2mに生育

海岸防災林の造成で生じた問題点と対応

 
 林野庁が実施した植栽箇所は概ね順調に生育していますが、何点か問題もありました。
 2013年に植栽した個所でクロマツが枯れて、それがマスコミに取り上げられました。
 原因として考えられるのは、2月に植えたために寒さの被害にあったこと、防風柵が南北方向のみで十分でなかったこと、盛土した地盤を平らにしたので排水が十分でなく所々に水たまりが出来て根腐れがおこったこと、などがあげられます。特に盛土地盤は水平に整地するのですが次第に凹凸が出来、低い箇所に水がたまります。そこに植えられた苗が枯れていました。

 枯死した箇所
水たまりになった盛土箇所
(東松島市大曲地区)
 ※写真の箇所の状況
・雨が降ると真中に水たまりが出来た
・防風柵が南北方向のみで不十分
・水平に整地しても次第に凹凸が出来てしまう 

 その後、対策として植樹は適期に行うこと、防風柵の内部に10×20m幅で静砂垣(防風柵)を設置すること、水はけを良くするため内部に排水路を作ること、等を実施しています。
 これまでの海岸林は砂浜にマツを植え、いかに成林させるかが最大の課題で、様々な工夫を重ね大変な労力と時間を費やして行ってきました。
 しかし、これからの海岸林はこれまでに経験のない、山土を盛土したところに植栽をすることになります。山土は主に凝灰岩質で有機質のほとんどない土壌は砂地と似ているのですが、乾燥すると固まり、水分を含むとドロドロになるなど大きく違う性質があります。このように盛土をした面は転圧しなくとも、次第に締まって硬くなります。
 こうした厳しい環境ではやはりクロマツが最も適していると思います。これまで植栽した様子を調査してみました。


 宮城北部森林管理署で実施した東松島市大曲地区の試験植栽箇所
2013年春クロマツ植樹
2013.10.9撮影 

2014.9.24撮影

2015.2.24撮影
2016.5.13撮影
大きなもので樹高約2mまで成長している

 試験地は静砂垣の形が実際のものと違いますが、土壌は盛土したものと同じで、植栽する際に施肥をしたり、チップでマルチング(全面被覆)したりするなど植え付け列ごとに変えて試しましたが、ほとんど差がなく、すべて順調に成長しています。
 林野庁の植栽の取組は次のURLをご覧ください。
 http://www.rinya.maff.go.jp/tohoku/sidou/kyoutei/other/sendai25.html

 広葉樹を植栽した個所は、林野庁の公募に応じて民間団体が実施した国有林の一部にあります。
 現状ではどの箇所も生育は芳しくないようです。土質が貧栄養で硬く、水はけも悪い、ということが最も影響しているように思われます。
 ただ、いずれも植栽後1~2年で、まだ結果がハッキリしていません。
 
2015年に広葉樹植栽した東松島市大曲地区の海岸林
(国有林に応募した民間団体が植樹)
2016.5.13撮影

竹杭の所に苗木がある。活着は7割。幹は枯れたが新たに根元から萌芽する苗が多い。
 
同じ場所で同時期に別の団体がクロマツを植栽した個所
2016.5.13撮影

活着率は90%以上


海岸防災林の管理の課題

 
 現在、海岸防災林は国有林、民有林、関係団体、ボランティアが力を合わせて復旧に取り組んでいます。あと5年での復旧を目指しています。これまでも、盛土面での苗木の活着率、松くい虫抵抗性マツの苗木の供給などの課題を少しずつクリアして今日に至っています。
 宮城県での海岸防災林の始まりはシリーズ第1回で説明していますが、江戸時代初期に沿岸地帯の開拓等を目的に造成され始め、明治30年の森林法制定により海岸防災林は保安林に編入されます。昭和初期の金融大恐慌、燃料問題、太平洋戦争などの時代背景や、津波対策などもあいまって、昭和初期から熱心に行われた海岸防災林の造成は昭和20年代にピークを迎えます。この頃、宮城県では地区ごとに海岸林保護組合を結成して地元の方々が海岸防災林を管理してきました。それから50年(半世紀)ほど経つと、地元での管理体制の揺らぎが見え始めました。
 津波による被災前の海岸防災林は成林した箇所が大半でしたが、火災、ツチクラゲ病やマツノザイセンチュウ病による枯死、正月用門松等に用いるマツの枝の盗難、さらには盆栽用マツの盗掘、産業廃棄物の不法投棄などもありました。海岸林保護組合の上位組織として連絡協議会が地区毎に結成され、総会や研修会を毎年開催していました。しかし、各組合とも後継者を確保できずに総会出席者は年々減少し、高齢化していきました。これまでに一生懸命海岸林防災林を維持管理してきた方々のみでは、これまで通りの保護活動はできなくなりました。
 こうなると目に見えて海岸防災林の機能維持に支障を来すようになりました。海岸防災林は補植もされないまま、荷物置き場や畑に利用される例も見受けられました。東日本大震災直後は、熱心なサポーター(ボランティア)が「海岸防災林の早期復興」を行政に詰め寄る場面も見られました。たしかに震災前も海岸防災林の松くい虫被害跡地への抵抗性マツの植栽にはボランティアが大きな力を発揮しています。
※ボランティア団体による海岸防災林復興支援

 林野庁東北森林管理局では,海岸防災林の再生復興の手法に民間団体等との連携を掲げ、国有林において生育基盤の造成工事(盛土など)が完了した箇所の一部で、プロジェクトの一環として、NPO・企業等の民間団体と協定を結んで海岸防災林の再生に取り組んでいます。
 これまで東北森林管理局と協定を結んだ面積と団体数は、平成24 年度は1.72ヘクタール・14団体、平成25 年度は9.24ヘクタール・12団体、平成26年度は4.18ヘクタール・10団体、平成27年度は4.87ヘクタール・9団体となっており、平成28年も3.5ヘクタールが公告されています。
 協定締結した企業や団体は、それぞれボランティアを募集して植栽し、10年間管理することとされています。
 管理業務には苗木が枯れた場合の補植や雑草の刈り払いが含まれます。
 協定締結団体は指定された条件の苗木調達や植栽器具などを用意し、ボランティアを募って実施しています。中には、オイスカのように育苗から取り組んでいる団体もあります。

 地域の人々の暮らしの変化にともない、海岸防災林林の管理も変化してきました。
 昭和30年代までは燃料資源としての松葉の重要さがあったようです。家庭用燃料は電気・ガス・石油に代わり、魚の干物づくりもやめて、農作物をつくる人も減り、就職は都会、結婚後は実家に戻らないなど、個人個人が海岸防災林の恩恵を気にしなくても支障が少ない状況となってきました。海岸防災林復興後の維持管理は、こういった現状を見ていただけに、将来の課題もいくつか頭に浮かんできます。

                     ***

 まず、実際に海岸防災林の恩恵を受けていた方々は、津波により家が流されてしまったため、転居したか、災害公営住宅や仮設住宅に住むなど、内陸部にお住まいです。亡くなった方もいらっしゃいます。農地は復旧されてきましたが、中には全住民が移転した部落もあります。
 海岸防災林林は造成できればそれで目的が達せられるというわけではありません。造成された海岸防災林が、長く将来にわたりその防災機能を維持し続けるためには、日常のきめ細かな見回りや管理道や柵の維持、不法投棄や山火事の防止、様々な原因による海岸林の劣化への迅速な対応などの管理を続けることが必要です。

 今は、ボランティアの方々が植栽や管理に取り組んでいますが、地元の方がボランティアグループに入っているところはわずかです。海岸防災林が成林した後は、いったい誰が管理するのでしょう。何十年、何百年と海岸防災林のパトロールや管理を継続するのはかなり難しいことになります。管理業務については、ボランティアの力を借りるにしても、ボランティアそのものの資金や構成員を継続確保していくのは困難ですので、ある程度は行政主導型になってしまうのではないかと思っていますが、細やかなパトロールと管理、即座の対応は厳しいものがあります。
 
 
昭和28年 管理の合間 宮城県石巻市長面
 望ましいのは、地域での管理だと思いますが、管理の必要性を長い間維持していくことは、これまでの海岸林保護組合の内情を見ていても、生半可なことではありません。うまい仕組みを作っていくことも大きな課題の一つです。
 いつの日か、旧来の地域での管理がよみがえることも夢の一つとして持っていたいと思います。
私たち森林インストラクターに何ができるのか、今後も考えて前に進もうと思う今日この頃です。

                     ***

 宮城県の海岸防災林への取組の状況と今後の課題について報告してきました。森林インストラクター会みやぎとしては、今後とも調査研究活動を継続していく考えです。現地をご覧になりたい方は、事務局(相澤)までご相談ください。


はじめに戻る

東北・宮城の海岸林防災林の復興状況と課題の初回はこちらから

生物多様性と子どもの森
グリーンウエィブ2017参加登録
会員が書いた本
森林インストラクター地域会
Newsを考察
サイトマップ

一般社団法人 日本森林インストラクター協会

〒112-0004
東京都文京区後楽1-7-12
林友ビル6階

アクセス


TEL/FAX  03-5684-3890    

問い合わせはこちらから