少し前なのですが、森林のノーベル賞と言われる「マルクス・ヴァレンベリ賞」を日本人研究者3名が受賞しました(受賞決定は3月、受賞式は9月)(参考文献1)。そこで、今月はこのニュースについて考えてみたいと思います。
■マルクス・ヴァレンベリ賞と受賞対象
マルクス・ヴァレンベリ賞は森林や木材科学分野の研究開発の奨励を目的にスウェーデン国王が授与する賞で1980年に制定されました(参考文献1)。今回の受賞の対象はセルロースナノファイバーという木から取り出したセルロースを機能材料として活用するための研究で、様々な用途での活用が期待され、多くの石油由来の製品が木材由来の製品に置き換わる可能性を秘めています(参考文献1、参考文献2)。
■セルロースの役割
樹木は多くの化学成分からできていますが、セルロースは主要成分の一つで、人間に置き換えれば骨にあたり、樹木を支える役割を有します。ちなみに筋肉に相当する成分はリグニンで、セルロースとリグニンの結合の数が木材の強度を決めるのではないかと考えられています(参考文献3)。
■木材の性質を熟知して活用してきた日本の技
日本では昔から木材の性質を活かして、文字どおり「適材適所」に材を活用してきました。例えば、木造建築では、梁には曲げ強度に強いマツ材を、柱にはまっすぐで製材後の狂いが少ないヒノキやスギを、基礎には腐りにくいクリなどを使ってきました。このような木材の性質は、科学的な視点ではセルロースやリグニンなどの化学成分の特性と大きく関係しているのではないでしょうか。日本では科学的解明がなされる前から、経験的に材の性質を熟知して活用してきました。地震が多く湿気も多い日本で世界最古の木造建築である法隆寺が存在しつづけていることは、まさに木材の機能を巧みに使っている証ですね。法隆寺のヒノキの年輪を分析した結果、伐採年が西暦594年ということですから(参考文献4)、1,400年以上、構造材としての機能を維持していることになります。しかも、最後は腐って土に帰ります。
■まとめ
今回のセルロースナノファイバーの研究は上述した木材の性質に光を当ててくれました。将来、木材由来の新材料が石油由来の材料に置き換わり、木材の価値が再認識されることは、大変に意義があることだと思います。さらに付け加えると、日本では、森林が再生できる範囲で木材を使ってきました。このような観点からは、新材料を作るための投入エネルギー量も、石油由来の材料に比べ抑制でき、森林の成長量がエネルギー投入量とバランスすると(実際の計算では森林の成長量をエネルギー量に換算する必要があります)、なお良いですね。まさに資源循環型の材料です。
参考文献1:ヤフーホームページ,「“森のノーベル賞”に日本人のセルロースナノファイバー研究が授賞, 2015年4月6日」,(2015年6月22日参照)
http://bylines.news.yahoo.co.jp/tanakaatsuo/20150406-00044567/
参考文献2:JBpress「森林のノーベル賞「マルクス・ヴァーレンベリ賞」日本人受賞の意義, 2015年6月17日」,(2015年6月22日参照)
http://news.livedoor.com/article/detail/10240262/
参考文献3:独立行政法人 森林総合研究所ホームページ,「樹木を化学の目で観る」, 研究の“森”から, 第120号, 平成16年1月30日発行,(2015年6月22日参照)
https://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/kouho/mori/mori120/mori-120.html
参考文献4:独立行政法人国立文化財機構 奈良文化財研究所ホームページ,「法隆寺五重塔心柱の年輪年代」,(2015年6月22日参照)
http://repository.nabunken.go.jp/dspace/bitstream/11177/309/1/BA67898227_2001_032_033.pdf
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