TPP交渉の合意環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の参加国間の交渉がまとまりました。今回のTPP合意は様々な品目が対象としています。そこで、今月は、林業分野における貿易の自由化の流れを振り返りながら、農産物を中心にこの問題を考えてみたいと思います。
■TPPで決まったこと
10月の米国アトランタでの会合では様々な分野において貿易に関するルールが決まりました(参考文献1)。国際的な貿易の自由化の流れのなか、農産物の関税は多くの品目で段階的に削減され10数年後には撤廃される方向にあります(参考文献2)。このような状況を想定し、以前からTPPへの参加による様々な影響が指摘されてきました(参考文献3)。
■林産物の貿易環境の推移
ところで、林産物の貿易については、既に、丸太(桐を除く)、チップ、製材(ベイマツ・ベイツガ)、木製家具、紙は無税であり、製材、合板、集成材などには3.9〜10.0%の関税がかけられてきました(参考文献4)。中でも丸太は貿易の自由化が早く、1951年に関税撤廃がはじまり、1964年には完全に自由化されています。社会的背景が異なるため、単純な比較はできないと思いますが、丸太の場合に13年後に完全自由化となった時間的な流れを考えると、農産物の多くの品目では現在が1951年の丸太と同じ状況にあると、とらえることもできます。
■林業から学ぶ
丸太の完全自由化後に日本の林業が受けた影響を木材の自給率でみると、価格低迷などが影響し、1960年に89%だったものが2002年には18%まで落ち込みました。昨年は31%まで回復してきましが、半世紀が過ぎても以前のようには回復していません(参考文献5)。この影響は、離職や過疎の問題も重なって人工林の手入れ不足をまねき、土地の生産性に加え、水源涵養や土砂災害防止などの多様な機能を低下されるという問題を起こしています。農業は土を使う産業という点で林業と共通点があります。今後の農業のあり方を検討するにあたっては、林業が受けた影響をしっかり見つめなおすことが、大切ではなでしょうか。
■まとめ
TPPへの対応は社会の制度が関係する大変に難しい問題です。今回の合意により、その対象品目は大幅に広がる訳ですが、農産物は身近な「食」に関係するテーマでもあり、多くの人たちが関心を持つことが重要であると思います。解決には経済至上主義から脱却するポスト資本主義的な考え方をとりいれローカルな地域内でモノや経済が回るコンパクトな街づくりが効果的かもしれません(参考文献6)。林業が歩んできた道を参考にしながら、TPPというグローバルな仕組みと、コンパクトな街の仕組みを、うまくバランスさせることを考えてみてはどうでしょうか。
参考文献1:内閣官房TPP政府対策本部,「環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の概要」, 平成27年10月5日, 内閣官房内閣広報室ホームページ(2015年10月17日参照)
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2015/10/151005_tpp_gaiyou_koushin.pdf
参考文献2:農林水産省, 「TPP交渉 農林水産分野の大筋合意の概要(追加資料)」, 平成27年10月, 農林水産省ホームページ(2015年10月17日参照)
http://www.maff.go.jp/j/kokusai/tpp/pdf/tpp_2.pdf
参考文献3:内閣官房,「TPPに関する意見取りまとめ(デメリット として指摘される点 抜粋)」,平成24年5月, 内閣広報室ホームページ(2015年10月17日参照)
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2012/1/20120529_demerit.pdf
参考文献4:林野庁企画課,「平成26年 木材需給表」, 平成27年9月, 林野庁ホームページ,(2015年10月23日参照)
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/kikaku/pdf/150929-02.pdf
参考文献5:川口大二,「我が国の林産物貿易の現状」,林野庁木材貿易対策室, 平成26年2月12日, 林野庁ホームページ,(2015年10月21日参照)
http://www.rinya.maff.go.jp/j/kaigai/pdf/20140212b.pdf
参考文献6:広井良典,「ポスト資本主義」岩波新書, 1550,(2015)
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