木質系バイオマス発電は出力変動が少ない再生可能エネルギー型の電源として注目されています。このコーナーでは今年3月に取り上げ、燃料供給源としての森林への配慮の必要性を指摘しました。12月には国内最大規模の発電所が稼働するなど、バイオマス発電の燃料供給源への環境配慮は待ったなしです。そこで、今月は、燃料供給源としての森林について、定量的な分析結果を参照しながら、再度考えてみたいと思います。
■木質系バイオマス発電が増加
日本のバイオマス発電設備は増加傾向にあり、2015年だけでも30カ所以上が稼働する見込みで、燃料確保が課題となっています(参考文献1)。川崎で今月稼働する国内最大規模の49MWの発電所では、燃料には未利用の木材などを固めた木質ペレットやパームヤシ殻を使用するそうです(参考文献2)。
■燃料調達による人工林施業の効果試算
燃料調達時に木材や植物を持続可能な範囲で使うことの必要性は3月にこのコーナーで指摘しました。このような適切な施業は、多くの人工林が伐採期にあり、高温多湿で植物の成長が著しい日本では、森林の若返りにつながり、環境改善につながります。実際に、ライフ・サイクル・アセスメントという評価手法を用いて温暖化影響と植物の成長量である一次生産性影響を比較した試算では、岩手県内に1MW級バイオマス発電設備が設置されて燃料調達のために県内アカマツ人工林が適切に施業されたと想定した場合、アカマツの成長量が回復する環境改善効果は、絶対量比較で温暖化影響の50〜100倍になるという結果が示されています(参考文献3)。ここでの施業シナリオでは、燃料には未利用材が使用され、需要量が成長量を超えないよう広いエリアから切り出すことになっています。このため、施業面積は岩手県のアカマツ人工林の1割程度と広く、このことが大きな環境改善につながっています。また、50〜100倍というバラツキは、施業対象となるアカマツ人工林の平均林齢と主伐や間伐という施業内容の違いによるものです。
■これから求められること
上記の試算は世界にいくつかある評価手法のうち、日本の代表的な手法を用いて行われたものですが、手法の違いが結果に与える影響を考慮しても、木質系バイオマス発電の場合に一次生産性影響に留意すべきということは変わらないと考えられます。国内の燃料確保に限りがあり、輸入も避けられない現状において、燃料を調達した海外の森林や畑のその後の状態をきちんと管理していくことが燃料を使用する側にも必要ではないでしょうか。一方、国内では、人工林を施業するための人材確保や雇用維持の重要性を改めて認識しました。
■まとめ
今月は木質系バイオマス発電を再び取り上げ、燃料を供給する場面での環境配慮のあり方について、定量的なデータを引用して考察してみました。しかし、今回の話題の対象は温暖化影響と植物の成長量という、森林の多様な機能の中の一部に留まっており、評価手法の研究開発が待たれます。一方で、燃料確保の課題に関しては、大分での未利用材の専門市場の開設など(参考文献4)、様々な取り組みが全国で始まっています。多くの知恵を活かして、木質系バイオマス発電を、本当の意味で循環型のシステムにしていきたいですね。
参考文献1:産経新聞, 「ポテンシャル大きいバイオマス発電、森林保全にも寄与(2015年11月8日)」, 産経新聞ホームページ(2015年11月15日参照)
http://www.sankei.com/life/news/151108/lif1511080001-n1.html
参考文献2:スマートジャパン「日本最大の木質バイオマス発電所、49MWで2015年末に稼働へ」スマートジャパンホームページ,(2015年11月15日参照)
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1308/08/news020.html
参考文献3:野田英樹,橋玲子,高畑和夫, 「アカマツ林施業を考慮した木質系バイオマス発電システムの環境影響評価」, 日本LCA学会論文誌,Vol. 11, No. 2,(2015)
参考文献4:大分合同新聞,「専門市場開設へ バイオマス発電用の未利用材(11月13日)」, 大分合同新聞ホームページ,(2015年11月15日参照)
https://www.oita-press.co.jp/1010000000/2015/11/13/223205042
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