昨年12月に世界の地球温暖化問題に関するパリ協定が結ばれました。そこで今月は、同協定の森林に関する話題を取り上げました。
■パリ協定における森林の取り扱い
パリ協定では、京都議定書には無い森林分野の新たな項目として、途上国の森林減少・劣化に由来するCO2排出増を抑制するための支援の必要性に関する条文が盛り込まれました。加えて、活動のための二国間協力、緑の気候基金等の多国間協力や市場メカニズム等を含む多様な仕組みを通じた資金確保の重要性も認識されました(参考文献1)。
■森林におけるCO2の吸収、排出、固定(※)
森林におけるCO2の収支は、光合成によるCO2の吸収と呼吸や枯死に伴う腐朽等に伴うCO2の排出があり、その差が木に固定されます(参考文献2)。光合成が盛んな時は、木の成長も盛んになりますので、CO2の固定効率は木の成長量に依存します。木の成長量は樹齢に関係し、松の場合には、年間成長量は林齢20年ほどでピークを迎え、その後は徐々に低下し、一定の成長量に落ち着きます(参考文献3)。なお、木を燃やすと固定されたCO2が大気に戻っていくことになりますが、このCO2は大気から吸収したCO2なので、カーボンニュートラルとしてCO2排出量にはカウントされません。
(※)森林のCO2固定は厳密にはC(炭素)のストックになりますが、ここではCO2の固定と表現します。
■木の成長量を考慮したCO2排出管理
森林のCO2排出管理には、過剰な伐採の禁止に加え、上述したように木の成長量を考慮した効率的なCO2の固定も重要です。木の成長量を表す純一次生産性(NPP:Net Primary Production)の調査は世界中で行われています。清野らによる地域別NPP調査(参考文献4)では、日本がおよそ10-15(t/ha/年)、ロシアがおよそ1-5(t/ha/年)、東南アジアでは20-25(t/ha/年)という地域も多く、NPPの地域差は大きいと言えます。ここから、CO2排出管理にはNPPの地域差を考慮する必要であることが分かります。加えて、NPPの樹種による違いや、持続的な森林の更新への配慮も必要です。これらに関しては、既に京都議定書の算出方法にも考慮され様々な調査や研究も進んでおり、それらの成果を活かした、きめ細かい合理的な対応が望まれます。
■森林管理には地域への配慮が大切
今月は、パリ協定に関係するCO2排出を中心とした森林管理について考察してみました。一方、世界中どこでも森林は地域の生活に密接に関わっています。したがって、森林に関するCO2排出管理の実践においては、地域社会への影響も十分考慮する必要があります。地域経済への影響を補てんする経済支援も一時的には必要かもしれませんが、地域住民が自らモチベーションを高く維持でき、安定した地域社会を次の世代につなげていくような仕組みづくりを忘れてはいけないと思います。
参考文献1:農林水産省, 「「気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」、「京都議定書第11回締約国会合(CMP11)」等の結果について」,
農林水産省ホームページ(2015年12月18日参照)
http://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/kankyo/151215.html
参考文献2:林野庁森林整備部森林利用課「地球温暖化防止に向けて よくある質問」林野庁ホームページ,(2015年12月19日参照)
http://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/ondanka/con_5.html
参考文献3:蜂屋欣二, 竹内郁雄, 柑秋一延,「高密度のアカマツ林の一次生産の解析」, 林業試験場報告第354号, 林試研報, pp.39-97, 1989
参考文献4:清野豁,「自然植生の純一次生産力と農業気候資源の分布図」, 国立研究開発法人 農業環境技術研究所,(2015年12月19日参照)
http://www.niaes.affrc.go.jp/topics/g7/
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