花粉症の方はスギ花粉が気になり始める時期です。筆者も花粉症であり、症状の悪化を抑える薬を服用し始めました。そこで今月はスギ花粉について、考えてみたいと思います。
■スギの花粉症に様々な視点から
花粉症の患者は増加しつづけており、林業白書によると国民の3割にのぼるそうです(参考文献1)。関係省庁(文部科学省、厚生労働省、農林水産省、気象庁及び環境省)は連携して、花粉症の原因究明、予防や治療、花粉発生源に関する調査や研究を推進し、森林に関係する花粉発生源の対策としては、雄花における生産量予測、開花時期の推定手法開発、菌類を用いたスギ花粉飛散防止薬剤の開発、スギ人工林等を花粉の少ない森林へ転換する取り組みなどを進めています(参考文献1、2)。
■専門家による地道な研究
これらの取り組みは専門家による地道な調査や研究によるものです。例えば、雄花における生産量予測の取り組みでは、現場で試験的な調査を行った結果、雄花の生産量が多い木を選んで抜き伐りをしても、確実な花粉削減対策にはならないという報告がなされています(参考文献3)。また、雄花を多く有する木を優先的に間伐した場合の有効性を調査し、間伐により花粉生産量が増えてしまう影響を緩和する森林管理手法も検討されています(参考文献4)。
■研究や検証を通じた取り組みの成果と社会ニーズとの時間軸の違い
森林を対象とした調査や研究には多くの時間が必要です。例えば、ある花粉の飛散や成長に関する仮説を立て、その検証を通じて施策を実施しても、施策の効果を実感できるようになるには、時間がかかります。スギが花粉を付けるには20年から30年必要です。一方で、花粉症への対策は早い成果が求められます。このような研究と社会からのニーズの時間軸が異なるという難しい状況を踏まえ、林野庁では、スギ花粉発生源対策において、都市部へ多く花粉を飛散させている地域への施策や、少花粉スギ品種等に関する居級と新品種開発などを優先してきました(参考文献2)。筆者も花粉症の一人として、このような取り組みを理解して、上手く花粉症と付き合っていきたいと思います。
■まとめ
今月は花粉症への国レベルでの対応状況について、花粉発生源の研究や調査を事例に取り上げ、その地道な取り組み状況を紹介し、成果が得られるまでには多くの時間が必要であるという課題について触れました。私たち森林インストラクターは、これら研究者の地道な取組みに加え、今回は触れていませんが、スギの良い面についても合わせて情報発信し、成果が表れる次の世代に継承していきたいと思います。
なお、少花粉スギの開発は、雄花が少ないサンブスギを有する千葉県が先行し、1995年には「花粉の少ないスギ優良品種」に選定されています(参考文献5)。また、無花粉スギは富山県で初めて発見され、その後、神奈川県でも見つかり、優良品種の開発に取り組んでいます(参考文献6、参考文献7)。
参考文献1:林野庁, 「平成26年度 森林・林業白書(平成27年5月29日公表)」, 林野庁ホームページ(2016年1月29日参照)
http://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/26hakusyo/
参考文献2:林野庁, 「花粉発生源対策の取組の評価と今後の検討方向(平成19年7月)」, 林野庁ホームページ(2016年1月23日参照)
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/h19-7gatu/pdf/0705g.pdf
参考文献3:金指達郎, 「花粉症対策の現状−森林側から貢献できること−」, 森林総合研究所, 森林・林業公開講座(平成20年度第2回), 林野庁ホームページ(2016年1月23日参照)
http://www.rinya.maff.go.jp/kanto/gizyutu/kouza/pdf/h20_2kafuntaisaku.pdf
参考文献4:独立行政法人 森林総合研究所, 「雄花量に着目したスギ林の間伐効果の科学的検証」, 交付金プロジェクト研究 成果集 47 ISSN 1349-0605, (2011)(2016年1月23日参照)
https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/koufu-pro/documents/seikasyu47.pdf
参考文献5:千葉県農林水産部農林総合研究センター森林研究所, 「サンブスギ」, 千葉県ホームページ(2016年1月31日参照)
https://www.pref.chiba.lg.jp/lab-nourin/nourin/sanmusugi.html
参考文献6:富山県農林水産総合技術センター/森林研究所, 「優良無花粉スギ「立山 森の輝き」について」, 富山県農林水産総合技術センターホームページ(2016年1月31日参照)
http://taffrc.pref.toyama.jp/nsgc/shinrin/link_flat.phtml?TGenre_ID=326&t=blog2
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