ノルウェーの議会が森林の皆伐を禁止する方針を示したそうです(参考文献1)。そこで、今月は、日本での調査例などを参照しながら森林の伐採方法について考えてみたいと思います。
■ノルウェーの議会の動き
ノルウェーの議会は、生態系に全く又はほとんど影響を与えないようにパーム油や大豆、牛肉、材木などの産品を確保していく方針を決めたそうです(参考文献1)。この記事では、背景として、パーム油、大豆、牛肉や材木の生産は世界の熱帯雨林の伐採の半分弱に関係しており、森林が焼かれた場合の二酸化炭素ガスの放出影響も指摘しています。
■森林伐採に関する様々な方法
ここで、まずは森林の伐採方法について整理してみたいと思います。森林の伐採方法は大きく分けると主伐と間伐に分類されます。主伐は更新を伴う伐採で、間伐は立木が伸び、光が入りにくくなった森林で部分的に行う伐採です。また、主伐は皆伐と択伐からなります。皆伐は森林を構成する木の一定のまとまりを一度に全部伐採する方法で、択伐は木材として利用できる樹木を概ね30%以内の伐採率で部分的に伐採する方法です(参考文献2、参考文献3)。厳密には更に様々な伐採方法があります。
■植物種が多様な日本では適材適所の伐採方法が求められる
日本は植物種が多様であるため、伐採方法を一律に決めることは難しく、人工林を対象とした場合でも様々な視点からの検討が必要になります(参考文献4)。また、例えば急傾斜ヒノキ人工林では、皆伐を行う主伐より間伐をして下層植生を増やす方が表土の移動を抑える効果が高いことが確認されています(参考文献5)。一方、高齢化したマテバシイ林では、帯状皆伐による表土移動の抑制効果が認められています(参考文献6)。このように、日本では適材適所の伐採方法が検討されています。
■まとめ
今回はノルウェーの議会が決めた森林伐採の取り決めに関連し、植物種が豊富な日本の森林における調査例から、植物種や生息条件により導入を検討する伐採方法が異なることを紹介しました。加えて、もう一つ重要なことは森林のどの機能に着目して最適な伐採方法を検討するかということがあります。ノルウェーの記事では、生態系保全と二酸化炭素の固定の機能が言及されていますが、日本の事例では表土流失防止を対象としています。更に実務では安全性の考慮も必要になります。このように、伐採方法を議論するときは、植物種の違い、求められる森林機能の違い、安全性など多様な視点から検討する必要があります。日本の事例から分かるように、まずは地道なデータ収集が大切です。ノルウェーの場合も、対象が熱帯林であれば、その地域の実情を考慮した臨機応変な対応が求められるのではないでしょうか。
参考文献1:CNNニュース, 「ノルウェー、森林破壊を認めない国に 世界初(平成28年6月9日)」, livedoorNEWS(2016年6月19日参照)
参考文献2:林野庁ホームページ, 「よくある質問」(2016年6月19日参照)
http://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/sinrin_keikaku/situmon.html#12
参考文献3:関東森林管理局ホームページ, 「主な林業用語の解説」(2016年6月19日参照)
http://www.rinya.maff.go.jp/kanto/gijyutu/yougo.html
参考文献4:五十嵐哲也, 牧野俊一, 田中浩, 正木隆, 「植物の多様性の観点から人工林施業を考える−日本型「近自然施業」の可能性−」, 森林総合研究所研究報告, Vol.13 No.2 (No.431), pp29-42, (2014) (2016年6月19日参照)
https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/bulletin/431/documents/431-1.pdf
参考文献5:中森由美子, 瀧井忠人, 三浦覚, 「急傾斜ヒノキ人工林における伐採方法の違いによる細土,土砂,リター移動量の変化」, 国立研究開発法人 森林総合研究所, 日本森林科学会誌, 94巻3号, (2012) (2016年6月19日参照)
https://www.ffpri.affrc.go.jp/research/saizensen/2013/20130107-01.html
参考文献6:野原咲枝, 「高齢化したマテバシイ林における帯状皆伐の土壌保全効果」, 千葉県森林研究センター(2016年6月19日参照)
https://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/kanchu/num32/kennkyu/kenkyu5chiba.pdf
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