今月は多くの日本選手が活躍したオリンピックにおいて、卓球台を事例に日本の木工技術について考察してみたいと思います。
■オリンピックの卓球台
リオのオリンピックで使用された卓球台は日本の企業(株式会社 三英)が提供したそうです。天板には桂を、脚には東日本大震災の復興を願って宮古市のブナが使用されました。ボールの弾みを均一にするために天板に用いた桂の積層材には様々な工夫がなされ、木製の脚部においても、デザインや強度に工夫を重ねたそうです(参考文献1、2)。
■適材適所に用いられた桂とブナ
天板に使われた桂は日本各地に分布し、街路樹にも使われ、小柄の丸い葉が特徴です。材は広葉樹材の中ではやや軽く柔らかく、加工がしやすく狂いも少ない反面、耐久性はあまりよくありません。彫刻、玩具、版画の版木など様々な場面で利用されています。均一な特性と反りの少ない高い精度が求められる天板には向いた材といえます。
一方、ブナは世界自然遺産の白神山地の原生林が有名ですが、北海道南部から本州、四国、九州の山間部に分布します。材は加工しやすく衝撃にも強い反面、変色、腐食、狂いが生じやすいという課題があります。粘りがあり曲木加工に適するため、脚物の構造材に向いています。
リオの卓球台では文字通り適材適所の木が用いられていたということが分かります。
■人と人とのつながりと木を知ることの大切さ
天板は北海道の足寄の工場で、天板に用いる合板は同じ北海道の十勝の別の会社の工場で作られたものだそうです(参考文献3)。そこには高い木工の技術力に加え、近い場所で企業が連携しながら、最終的には人と人との繋がりなかで生み出された成果なのではないでしょうか。情報通信が発達し地球の裏側でも情報は共有できますが、人と人との顔を合わせた繋がりが大切なのだと思います。一方、脚部には、木を重ねてさまざまな形状を実現する成形合板という技術が使われています。製造に関わった企業(株式会社 天童木工)では木材のもつ様々な特性を活かす配慮や工夫をしているそうです(参考文献4)。これによりブナの曲げに強い特性を損なうことなく、スマートなデザインの脚が実現できたのではないでしょうか。
■まとめ
今月はオリンピックで使用された卓球台を題材に、日本の木を使う技術を中心に考察をしてみました。ちなみに卓球のラケットにはヒノキが多く使われるそうです。産地は木曽が多いそうで、最上級品は木曽檜の中でも北側の斜面で伐採された木目が詰まった材を用いるそうです(参考文献5)。日本の木の特性を上手く活用する知恵や高い工作技術が世界に再認識されると良いと思います。私たち森林インストラクターも情報発信を継続していきます。
参考文献1:日刊スポーツ新聞社「卓球男女メダル支えた!五輪公式台は日本の技術集結(2016年8月18日)」(2016年8月20日閲覧)
http://www.nikkansports.com/olympic/rio2016/table-tennis/news/1696625.html
参考文献2:(株)三英ホ-ムページ「もうひとつのリオ五輪 アスリートを支える五輪の卓球台」(2016年8月20日閲覧)
http://www.san-ei.global/infinity2016/san-ei_infinity.pdf
参考文献3:【年間キャンペーン スポーツの力】「十勝から支える技と情熱(1)三英TTF事業所、ニッタクス十勝工場(2014年9月5日)」(2016年8月20日閲覧)
http://www.tokachi.co.jp/feature/201409/20140905-0019175.php
参考文献4:株式会社 天童木工ホームページ(2016年8月20日閲覧)
http://www.tendo-mokko.co.jp/stories/
参考文献5:マイスターテクノロジー株式会社ホームページ「エンジョイスポーツコミュニケーションズ」(2016年8月20日閲覧)
http://www.enjoy-sports.com/basic4.php
バックナンバー
バックナンバーは
こちらから