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Forest Instructor Association of Japan

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2016年12月 パリ協定に対する日本の方針と森林との関係を考える 

今月は日本が批准したパリ協定について、日本の方針から森林との関係を考えてみたいと思います。

■パリ協定とは
パリ協定とは、国連気候変動枠組条約の全締約国(197ヵ国)が参加して、全ての国が排出削減に取り組む公平かつ実効的な気候変動対策のための協定です。各国の排出削減に関する透明性の高いルール構築に向けた交渉はこれから始まります。日本は、2030年度に温室効果ガスを2013年度比で26%削減するという目標に向けた道筋を付け、国内での排出削減に計画的に取り組むとともに、環境・エネルギー分野の技術開発を積極的に推進し、途上国の支援も推進していくとのことです(参考文献1)。森林に関しては、森林の果たす役割の重要性が認識され、特に途上国等における森林の植林を促すREED+(Reducing Emissions from Deforestation and Forest Degradation in Developing Countries:森林減少・森林劣化の抑制活動)の活動推進が求められています。日本の森林吸収に関する削減目標は2.6%です(参考文献2)。以下では、参考文献1の内閣総理大臣の談話にある「環境・エネルギー分野の技術開発」と森林の関係について触れてみたいと思います。

■環境・エネルギー分野の技術開発と森林の関係
「環境・エネルギー分野の技術開発」について、国立研究開発法人 科学技術振興機構は次の10項目をあげています(各項目の記載表現は筆者にて短くしています。詳細は参考文献3を参照下さい)。

1.エネルギー消費総量の削減(高効率化、省エネ、需給平準化)
2.再生可能エネルギーの最大導入(システム化によるエネルギーミックス)
3.安定的・経済的電力供給の維持(石炭、天然ガスの高効率クリーン利用)
4.分散型エネルギーシステムの導入(総合効率向上、危機対策)
5.エネルギー・物質資源の多様化(供給安定性・持続性の確保)
6.原子力エネルギーの現実的シナリオ検討(安全性確保、依存度低減)
7.中長期の温暖化ガス排出削減シナリオの再構築と国際的イニシアチブ
8.優れたエネルギー・環境関連技術の海外普及、世界の格差是正、温暖化対策への貢献
9.次世代のため、人の健康を含む生命の持続性の基盤となる環境負荷低減と環境改善
10.将来顕在化しうる環境問題を事前に捉えた環境の設計と創造

この中で、森林に関係する項目をあげてみますと、項目1、2、4、5がバイオマスエネルギー、項目7、8が海外における植林やバイオマスエネルギー普及、項目9、10が生活環境の維持改善を目的とした次世代などの長期的視野にたった森林保全、などと考えることができます。森林が有する多様な機能が、様々な項目との関係性を持たせていると言えます。例えば美味しい水を恵んでくれる森林は項目9にはなくてはならないものですよね。

■バイオマスエネルギー利用の背後にある大切なこと
先月のこのコーナーでも触れましたが、バイオマスエネルギーは森林資源が豊富で伐採期を迎えた人工林が多い日本では期待されています。一方で、昨年12月にこのコーナーで紹介したとおり、バイオマス発電を導入することによって地域の森林が適切に施業されることによる資源生産性向上効果は温室効果ガスの排出影響や削減効果よりはるかに大きいという試算結果があります(参考文献4)。このように、バイオマスエネルギー利用においては、その背後にある燃料供給元の「森林の状態」が重要になります。ちなみに前述の試算には、水源涵養や土砂流失防止などの項目9、10に関係する効果は含まれていません。一方、林野庁では森林がもたらす効果を金額換算した試算値を公開しています(参考文献5)。計算方法が異なるため各機能の算出額の比較はできないようですが、様々な価値の規模感はわかります。これらの機能も「森林の状態」によって大きく変わります。

■まとめ
パリ協定というと直接的な温室効果ガス削減対策が注目されますが、これから始まる環境・エネルギー分野の技術開発の検討では、バイオマスエネルギーの議論においては、森林の多様な価値を皆が理解し、燃料供給の背後にある「森林の状態」への配慮が必要ではないでしょうか?適切な森林管理が認証されたFM(Forest Management)森林の増加にバイオマスエネルギー利用が貢献していくことが大切です。

参考文献1:内閣官房内閣広報室「「パリ協定」の受諾に関する内閣総理大臣の談話(2016年11月8日)」(2016年11月20日閲覧)
http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/discource/161108comment.html

参考文献2:塚⽥直⼦ 「COP21における⼟地セクターの議論の概要(2016年1月20日)」、林野庁森林利⽤課、 IGES/GISPRI 共催COP21報告シンポジウム (2016年11月23日閲覧)
http://www.iges.or.jp/files/climate/pdf/cop21/20160120/4_tsukada.pdf

参考文献3:国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター「研究開発の俯瞰報告書-環境・エネルギー分野(2015年)」、CRDS-FY2015-FR-02 (2016年11月20日閲覧)
https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2015/FR/CRDS-FY2015-FR-02.pdf

参考文献4:野田英樹、髙橋玲子、高畑和夫 「アカマツ林施業を考慮した木質系バイオマス発電システムの環境影響評価」、日本LCA学会論文誌、Vol.11、No.2、(2015)(2016年11月20日閲覧)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/lca/11/2/11_154/_pdf

参考文献5:林野庁 森林整備部計画課「森林の有する機能の定量的評価」 (2016年11月20日閲覧)
http://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/tamenteki/con_3.html


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