東急池上線は筆者が学生から新入社員の時代に毎日お世話になっていた五反田と蒲田を結ぶ路線なのですが、その池上線の戸越銀座駅が木造で建て替えられたそうです。そこで、公共設備への木材利用について考えてみたいと思います。
■今回の木造り駅舎
築90年になる戸越銀座駅の木造り駅舎が、東京産のヒノキとスギを使って美しく生まれ変わりました。東急電鉄では80年ぶりの木造り駅舎で、職人たちの技が投入された新しい駅舎には木の香りが漂っているそうです。今回の建て替えは東急電鉄「沿線住民に愛される駅づくり」の一環で、商店街関係者や駅利用者の意見を取り入れて実現しました。費用面では、鉄骨造りに比べて初期投資は増えるものの、ライフサイクルの効果を重要視し、一部には東京都の森林・林業再生基盤づくり交付金を活用予定とのことです(参考文献1)。
■公共設備における木造づくりを推進する仕組み
公共建築物への木材利用を推進する仕組みについては、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が平成22年に施行され、昨年4月には推進計画の取組期間を平成28年度から平成32年度に設定しています。森林・林業再生基盤づくり交付金においても、林野庁が定める申請時のガイドラインには、この法律との関係を記載する項目があり(参考文献3)、公的な仕組みは整備されています。実際に公共設備への木造建築は、公営住宅や学校、ビル、さらにはコンビニの建物への導入などの事例がみられ、広がりつつあります(参考文献2)。加えて、各自治体では地元の木材を活用する取り組みを地道に進めています。例えば、長野県では、公募を募って企業と改良を重ね木製ガードレールの品質向上に取り組んでいます(参考文献4)。
■公共設備の導入時の検討で大切なこと
今回の駅舎の事例において、公共設備の導入時の検討という観点で良かったことは、(1)駅の利用者の意見を取り入れたこと、(2)ライフサイクルの効果を重要視したこと、ではないでしょうか?(1)については、利用者が木の良さを受け入れてくれた証しでもあり、うれしいことですね。(2)については、今回の場合は税金というわけではないですが、利用者の運賃が財源の一部であると考えると、次の世代の利用者の負担も考慮する必要がありライフサイクル的な思考は大切です。90年使われた旧駅舎同様、長く利用されることを望みます。20年や30年で建て替えが進む鉄骨コンクリート造りの施設も多いなか、木材の良さが注目されると良いですね。加えて、公共の場で木の香りや匠の技に触れる機会が増えることは、大変に良いことだと思います。
■まとめ
近年では木材の耐火性や耐腐食性が高くなってきており、木造の建築物や公共設備が増えることが期待されます。一方で、腐食という木材の性質は、土に帰るという点で、自然の循環型システムにはなくてはならない重要な役割です。使用時には耐腐食性に優れているものの、廃棄時にはちゃんと腐ってくれるという、虫のいい話は無い物ねだりなのでしょうか?公共の設備に木材利用が増えることで、木のことを皆が気に留める機会が増えると良いと思います。
参考文献1:東京新聞TOKYO Web「『下車したくなる』戸越銀座木造駅舎 多摩産スギとヒノキで美しく改築(2016年12月7日夕刊)」(2016年12月17日閲覧)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201612/CK2016120702000250.html
参考文献2:林野庁林政部木材利用課 「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(平成28年11月7日)」 (2016年12月17日閲覧)
http://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/koukyou/
参考文献3:林野庁長官通知「森林・林業再生基盤づくり交付金実施要領(最終改正:平成28年4月1日付け27林政経第333号)」(2016年12月17日閲覧)
http://www.rinya.maff.go.jp/j/keiei/kouzoukaizen/pdf/5kouhukinjissiyouryou.pdf
参考文献4:長野県建設部道路管理課「信州型木製ガードレール(更新日:2016年8月1日)」(2016年12月17日閲覧)
http://www.pref.nagano.lg.jp/michikanri/infra/doro/hashi/guardrail/index.html
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