今月は先月につづくお城の話題として、名古屋市が経済効果などの調査を開始することになった、天守閣の木造復元について取り上げてみました(参考文献1)。
■名古屋城の天守閣
1612年(慶長17年)頃に完成した名古屋城の天守閣は1959年(昭和34年)に鉄筋コンクリート造りに再建され、現在、耐震性能や設備の劣化が課題となっており(参考文献2)、木造復元が検討されています。木造復元にあたっては課題も多いようですが(参考文献3)、ここでは、鉄筋コンクリート造りと木造について考えてみたいと思います。
■鉄筋コンクリート造りと木造
鉄筋コンクリート造りの城は耐火性に優れ、来場者へ配慮した様々な機能を盛り込むことができますが、劣化対策や維持管理が大切です。一方で、木造建築は火災というリスクがあり、機能についても、例えば広く歩きやすい階段を作るとかバリアフリーにするなどということについては、特に城の場合、ある程度の制約を受けると思われます。加えて、用材の確保も課題です。しかし、考えつくされた建築は法隆寺のように千年を超える耐久性を有します。このように、両者にはそれぞれ特徴があります。
■木造復元において必要な議論
宮大工の故西岡常一棟梁は、職人の技術は木の種類だけでなく生える場所による癖や木目などを読み、千年先の建物の状態を見据えた極めて高度で、かつ、伝統的なものであると指摘しており(参考文献4)、このような技術の活用や継承は重要です。天守閣の木造復元の検討においては、利便性や経済活性化などの検討に加え、職人の技術継承、用材が枯渇しないことへの配慮など、次の世代につながる長い時間軸の分析が欠かせないのではないでしょうか?
■まとめ
江戸時代の木造建築のまま残っている天守閣は姫路城や松本城など12城で、木造復元された例は5城あります。愛媛県の大須城の木造復元は、計画が1994年に動き出し、完成が2004年と、その間10年を費やしています(参考文献5)。また、城の例ではないですが、国指定文化財以外の寺院本堂を対象とした調査によると、木造から鉄筋コンクリート造りへの建て替えは1960年代と1970年代に多く、一方で1980年代以降は木造への回帰が確認されています(参考文献6)。木造回帰への関心が高まるなか、技術継承や資源循環という長い時間軸の活発な議論がなされることを期待します。
参考文献1:読売新聞「姫名古屋城木造復元経済効果など調査(2017年6月10日)」(2017年6月21日閲覧)
http://www.yomiuri.co.jp/chubu/news/20170610-OYTNT50000.html
参考文献2:名古屋市観光文化交流局名古屋城総合事務所ホームページ「名古屋城公式ウェブサイト」(2017年6月24日閲覧)
http://www.nagoyajo.city.nagoya.jp/17_topics/281128/index.html
参考文献4:西岡常一(著)、西岡常一棟梁の遺徳を語り継ぐ会(監修)「宮大工棟梁・西岡常一「口伝」の重み」日経ビジネス文庫(日本経済新聞社)
参考文献5:大須城公式ホームページ「天守復元」(2017年6月25日閲覧)
参考文献6:佐々木健、勝俣英明「国指定文化財を除く全国の寺院本堂の建替えの実態」日本建築学会計画系論文集、第79巻 第701号、1567-1575、2014年(2017年6月24日閲覧)
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