広島県の農園で蛾の一種であるクスサンが大量発生し、毎年恒例のクリ拾いが中止になったそうです(参考文献1)。そこで、今月はクスサンの大量発生について考えてみたいと思います。
■クスサンの大量発生
クリの木の葉が食い荒らされた農園では、今回のようなクスサンによる被害は、木を植えて以来30年で初めてとのことです。考えられる原因として、人為的または気候変動など何らかの理由によるクスサンの天敵の減少や、産卵期にクスサンの成虫が集まるような環境の変化、が指摘されています(参考文献1)。
■クスサンとその影響
クスサンは日本、中国、台湾に生息する大型の蛾で、毛虫は体長が8cmにもなり、クリ、クヌギ、コナラ、サクラなどの様々な木を食害します。夏に樹上に作る楕円形の固い網目の繭は特徴的で、山野ではよく見かけることができます。卵で越冬し年に一回発生します(参考文献2)。クスサンの樹木への影響に関しては、北海道のウダイカンバを対象とした調査において、春の若葉が食害にあった場合は翌年の成長に影響がみられ、回復できないケースも出てくる可能性を指摘しています(参考文献3)。
■東京都区部のクスサン
その一方で、東京都の区部では2010年にクスサンが絶滅危惧Ⅰ類に登録されています(参考文献4)。絶滅危惧種Ⅰ類とは、今の状態をもたらした圧迫要因が継続する場合に野生での存続が困難な場合です。一時的な状況なのかもしれませんが、大量発生と絶滅危惧という両極端な状況が国内に存在しています。生物の周期的な大量発生は従来から観察されていますが少し極端な気もします。自然界の極端な現象については、温暖化によるもの想定される天候不順がよく指摘されますが、昆虫の生息環境の世界でも、温暖化やコンクリートによる土地改変などの人間の活動が極端な事態を招いていることは否定できないように思えます。
■求められる地道な調査による大量発生メカニズムの解明
クスサンにかぎらずマイマイガやカミキリなどの大量発生による特定の樹種への被害は全国的に見られます(参考文献5)。本コーナーでも2013年9月号でマイマイガの大量発生について触れました。しかし、発生メカニズムは天敵とのかかわりなど生態系全体に及ぶため、十分に解明されていません。大量発生に加え生息域の変動なども対象に、森林から都市部まで広い範囲で発生メカニズムの調査が必要なのかもしれません。
参考文献1:山陽新聞デジタル「ガが大量発生でクリ拾い中止 広島の観光農園、初事態に落胆(2017年9月18日)」(2017年9月18日閲覧)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170918-00010001-sanyo-l34
参考文献2:森林総研九州支所ホームページ(2017年9月18日閲覧)
http://www.ffpri-kys.affrc.go.jp/tatuta/mushi/kususa.htm
参考文献3:独立行政法人森林総合研究所「森林に対する生物被害、気象災害等の回避・防除技術に関する研究」(2017年9月18日閲覧)
http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/3030087303
参考文献4:東京都環境局「東京都の保護上重要な野生生物(木土部)~東京都レッドリスト~2010年版」(2017年9月18日閲覧)
http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/nature/animals_plants/attachement/RL2010TokyoMR.pdf
参考文献5:松木佐和子ほか「4年目を迎えたウダイカンバ林でのクスサン被害報告」第121回日本森林学会大会セッションID: Pa2-62, 2010年3月(2017年9月18日閲覧)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jfsc/121/0/121_0_625/_pdf
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