今月は昨年5月の本コーナーで紹介した紀伊半島南部で確認されたサクラが変種ではなく新種のクマノザクラであることが分かったということで、再度この話題を取り上げてみたいと思います。
■クマノザクラとは
クマノザクラは三重県熊野市、奈良県十津川村、和歌山県田辺市など、熊野川流域を中心に南北約90キロ、東西約60キロの範囲に群生し、鮮やかなピンク色の美しい花が特徴です。オオシマザクラ以来、100年ぶりの新種発見だそうです。 開花時期は3月上~下旬と早く、葉が細長くて小さいなど、固有の特徴を多く持つことから、新種と認められました(参考文献1)。
■日本のサクラの野生種
国内できれいな花を咲かせるサクラ(サクラ属サクラ亜属)の野生種は、①ヤマザクラ(山桜)、②オオヤマザクラ(大山桜)、③カスミザクラ(霞桜)、④オオシマザクラ(大島桜)、⑤エドヒガン(江⼾彼岸)、⑥チョウジザクラ(丁字桜)、⑦マメザクラ(豆桜)、⑧タカネザクラ(⾼嶺桜)、⑨ミヤマザクラ(深山桜)、の9種で、今回新たに10種目の仲間が加わったということになります。身近なソメイヨシノは人工交配であり、エドヒガンとオオシマザクラから作られたという説が有力です。一方で、果実酒が人気でよく目に留まるウワミズザクラは、厳密な分類ではサクラ属ウワミズザクラ亜属で、上記10種のサクラ属サクラ亜属とは異なるカテゴリに分類されます(参考文献2)。
■世界ではまだまだ多い新種発見と今回のケース
昨年5月の記事でも少し触れましたが、世界に目を向けてみますと、世界自然保護基金(WWF)とブラジルの環境保護団体IDSMによる調査では、世界中の動植物種の10%が生息しているとされるアマゾン川流の新種の発見数は2年間で381種と2日に1種の割合で新種が見つかっていることになります。生物の種には未知のことが多くあります(参考文献3)。今回の発見で興味深いことは、地域住民に身近な場所で発見されたことで、今までも「早咲きのヤマザクラ」として親しまれていたとのこと。存在は知られたのに新種とは思われていなかったのです。アマゾン川とは異なるこの様なケースもあるのですね。
■まとめ
今回は、昨年5月につづき、新種のクマノザクラを話題に取り上げました。日々、親しんできたサクラが新種だったという事例は世界でも珍しいのではないでしょうか?日本が温暖湿潤で植物の生育に適し種が多様である一方で、地域の人たちが木を大切に思う気持ちが脈々と受け継がれてきたからなのかもしれません。クマノザクラが地元で長く愛されると良いと思います。
参考文献1:日本経済新聞ホームページ「約100年ぶりサクラ新種 紀伊半島南部で群生(2018年3月13日)」(2018年3月21日閲覧)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28038320T10C18A3000000/
参考文献2:公益財団法人「日本さくらの会」ホームページ(2018年3月21日閲覧)
https://www.sakuranokai.or.jp/chishiki/
参考文献3:日経BPホームページ「アマゾンで新種続々、2日に1種の割合 2年間で381種、すでに絶滅の危機にさらされている種も(2017年9月5日)」(2018年3月21日閲覧)
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/b/090500111/
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