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Forest Instructor Association of Japan

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2019年3月 海外からの観光客増加と生態系保全について考える

テレビのニュースでも話題になりました豚コレラの原因は海外からの食品物の持ち込みであったとの報道がなされています。そこで、今回は増加する観光客と自然生態系保全の両立について考えてみたいと思います。

■海外からの持ち込みによる自然生態系影響
海外から持ち込まれたものによる自然生態系影響には、大きく感染症と外来種影響があげられます。自然界への影響を簡単に表現しますと、前者は感染した野生生物(今回の豚コレラの場合はイノシシ)が感染症を拡散させ、後者は外来生物の強い繁殖力が既存生物の生息域を脅かせます。感染症の場合は被害が明確で拡散が早いですが、外来生物の生態系への影響は長い時間をかけて広がるという、それぞれ異なる特質を持っています。

■観光客の増加と生態系維持を両立するための取組み
他方、これまで観光客の自然生態系影響への問題には多く議論がなされてきました。日本政府が策定した「第三次生物多様性国家戦略」では、生物多様性保全と持続可能な利用のための基本方針として、「開発や乱獲などによる種の絶滅や生息地の減少」、「里山などの手入れ不足による自然の質の変化」、「外来種などの持ち込みによる生態系の撹乱」の危機を100年かけて回復させる「100年計画」を立案しています(参考文献1)。
旅行業や宿泊業による環境保全への取組としては、「省エネ、省資源」、「自然文化・歴史遺産等の保護・保全」、「地域の美化活動等への参加」など、多くの事例が見られます(参考文献2)。観光客への取組としては、感染症に対策として動物検疫所など国の機関が豚コレラに関わらず様々な感染症を対象に空港などでの持ち込み物検査を進めています(参考文献3)。外来生物に対しても、例えば小笠原諸島では、山に入る手前で靴や衣服についてきた種の除去対策を徹底しています(参考文献4)。

■身近な問題としてとらえることと影響度理解の大切さ
海外の行き来で無意識のうちに自然生態系へ影響を与えてしまう可能性があることは、身近な問題としてとらえておきたいですね。ところで、国立環境研究所ではグローバルな連携のもと、行政分野を超えた横断的な検討が進んでいます(参考文献5)。ここでは、生物の多様性が損なわれることのリスクの定量化が検討範囲に含まれていることが興味深いです。リスクの定量化は優先順位などの合意形成に重要な役割を持ちます。家畜の感染症リスクは経済活動への打撃として分かり易いですが、固有種の絶滅などの影響は直接的に分かりにくいものです。加えて、冒頭に記したように影響が表面化するのに時間がかかる外来生物の影響を今のリスクにどう取り込むか、更には地理的特性や地域の文化なども考慮が必要になり、専門家が試算を重ねています。

■まとめ
今回はヒアリなど貨物に紛れ込み人に感染するような事例には触れませんでしたが、国を超えた観光客などの行き来によって生じる可能性がある自然への影響について考察してみました。グローバルな範囲での生態系の調査が進み、生態系影響のリスクを合理的に理解できる最新の取組みなども含め、身近な問題として情報を共有できると良いと思います。

参考文献1:環境省パンプレット「人と自然の共生」(2019年2月10日閲覧)
http://www.env.go.jp/guide/gyomu_pdf/p12-15.pdf

参考文献2:国土交通省ホームページ「観光と環境に関する調査報告書(平成20年2月)」(2019年2月10日閲覧)
http://www.mlit.go.jp/common/000059329.pdf

参考文献3:農林水産省動物検疫所 中部空港支所「動物検疫所の取組(平成30年7月25日)」(2019年2月10日閲覧)
http://www.maff.go.jp/tokai/shohi/seikatsu/iken/attach/pdf/20180725-5.pdf

参考文献4:林野庁ホームページ「観光客向けリーフレット」(2019年2月10日閲覧)
http://www.rinya.maff.go.jp/j/kokuyu_rinya/kakusyu_siryo/pdf/00795_3_h22_003.pdf

参考文献5:国立環境研究所生物・生態系環境研究センターホームページ「自然共生研究プログラム」(2019年2月10日閲覧)
https://www.nies.go.jp/biology/research/frame/program.html



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