岐阜県郡上市の星宮神社の鎮守の森(社叢林:しゃそうりん)が「郡上林業の歴史と技術を伝承する資料・展示と社叢林」として岐阜県初の林業遺産に登録されたそうです。そこで、今回は森林の地域との関わりについて考えてみたいと思います。
■社叢林の林業と住民参加の展示が評価
今回の登録において、星宮神社の社叢林は江戸時代から200年近くつづく育成林業、および、隣接する「美並ふるさと館」に保存されている豊富な資料や再現展示における地域住民の関わり、がそれぞれ評価されたそうです(参考文献1)。
■林業遺産とは
林業遺産は2013年度に始まった制度で、林業発展の歴史を示す景観や資料の記憶・記録を目的に日本森林学会によって選定作業が行われます。今年度は上記社叢林に加え、「十勝三股の林業集落跡地と森林景観」、「木地師文化発祥の地 東近江市小椋谷」、「琉球王朝時代の多良間島の「抱護」と『林政八書』」が選定され、認定数は全国で35件になります(参考文献2)。人と森林の営みが日本全国に文化として根付いていることが分かりますね。
■地域とのつながりが深い社叢林
全国に点在する社叢林については、農村地域を例に多面的機能の住民意識調査が行われています。この調査によると、住民意識が高い多面的機能は順に、文化・歴史的遺産、農村景観の形成、共同体の維持、ハレ・祭りの場、住民の心の拠り所、自然的価値、遊び・休息の場、などとなっています(参考文献3)。ここから、社叢林が地域住民の生活に深く根差していることが分かります。星宮神社の社叢林にかかわる資料の収集や管理を地域住民が行ってきたことも理解できます。
■次世代への継承と地域コミュニティ
上述した社叢林の調査では保全活動の課題も分析しており、その中には、住民の合意形成、若年層や新住民が関与できる新しい仕組み作り、という指摘があります(参考文献3)。社叢林の地域との繋がりを次の世代に引き継ぐためにも、若い人たちへの分かりやすい情報発信が大切になります。全国の森林インストラクターもそれぞれの地域での活動にお手伝いができればよいと思います。加えて、このような取り組みは、近年、薄れつつある地域コミュニティの維持・回復にもつながり、将来的に安心して暮らせる生活環境をもたらしてくれるのではないでしょうか?
参考文献1:岐阜新聞Web「県内初の林業遺産に 郡上市の星宮神社(2019年6月8日)」(2019年6月19日閲覧)
https://www.gifu-np.co.jp/news/20190608/20190608-145467.html
参考文献2:一般社団法人日本森林学会ホームページ「林業遺産選定一覧(2018年度)」(2019年6月20日閲覧)
https://www.forestry.jp/activity/forestrylegacy/catalog/2018.html
参考文献3:稲垣修,松本康夫,三宅康成, 「多面的機能を継承する社叢林の保全管理の課題」, 農業土木学会誌, 第72巻, 第8号,(2004)(2019年6月19日閲覧)
https://ci.nii.ac.jp/naid/130004291144/
〒112-0004
東京都文京区後楽1-7-12
林友ビル6階
TEL/FAX 03-5684-3890
問い合わせはこちらから