今月はコロナ禍の影響を受けたウッドショックのニュース記事から、林業を取り巻く環境の変化やあるべき姿について少し考えてみたいと思います。
■ウッドショック
ウッドショックとは世界的に丸太や木材の供給が不足し、価格が高騰している状態を言います。今回のウッドショックは米国のコロナ禍による生産調整に対する経済政策により住宅用木材供給が不足したことに、中国の国内需要の高まりなどが重なり、世界的な木材不足と高騰が起きています。国内の林業現場でもいろいろな動きが見られます(参考文献1)。
■木材価格の変動と林業現場への影響
これまでも木材の価格高騰は何度か見られています。1990年代前半のマレーシアの丸太輸出規制による米材と南洋材の減少に伴う価格高騰、2000年代中頃にも中国経済の拡大などによる世界の木材供給量不足による価格高騰などが特徴的な事例です。また、近年の研究では、木材価格の変動は製材工場の形態に関係性が認められ、最近は高付加を伴う多品種少量生産、国産材への転換などの傾向が認められること(参考文献2)、国産材丸太の価格には季節変動があり、その抑制が安定供給に重要であること(参考文献3)、など木材価格の変動による影響の分析が進みつつあります。
■林業経営の支援環境
日本では林業を支える制度が整いつつあります。税制面では森林環境税(2024年から個人住民税に1000円課税)、同税や公庫債券金利変動準備金(2020年度開始)を財源に市町村の森林整備を支援する森林環境譲与税(2019年開始)の仕組みができています(参考文献4)。また、林野庁の森林経営管理制度(新たな森林管理システム)(2019年開始)は、再植林の低迷、手入れ不足、所有者や境界の不明問題などが災害防止や地球温暖化防止など森林の公益的機能の維持増進に支障を生じさせるため、意欲と能力のある林業経営者への集積・集約化や市町村の支援により、森林の経営管理を確保し、林業の成長産業化と森林の適切な管理を両立する構想です。
世界的なコロナ禍による木材供給量の不足は、国産材の供給ニーズを高めますが、再植林など正しい育林計画とその確実な実施がセットになって初めて木材供給が可能になります。整備されてきた国内の仕組みや、価格変動の影響などの研究の知見を活かし、短期な価格影響に左右されない林業経営を皆の知恵を出し合って考えていきたいですね。
■まとめ
林業は将来の森の姿を考えて、伐採、再造林、育林などを進めていくものであり、市場価格の急激な変化に素早く追従するような産業とは異なります。林業現場では原木から加工や販売までの木材流通の効率化など様々な工夫が始まっています。30年後、100年後の将来世代に感謝されるような持続的な林業の仕組みが構築されることが今の私たちに求められているのではないでしょうか。
参考文献1:産経ニュース「「国産材に好機」ウッドショック、業界の期待と冷静(2021/7/11)」(2021年7月20日閲覧)
https://www.sankei.com/article/20210711-QP3VGXS2ZNK4NBGMIRSDAANT4M/
参考文献2:早舩真智, 立花敏, 荒谷明日兒 「プラザ合意以降における日本の製材工場の地理的変容」森林計画誌50 No.1’ 16, (2016) (2021年7月20日閲覧)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjfp/50/1/50_1/_pdf
参考文献3:林宇一, 立花敏,「木材価格における季節要素の析出と構成要素の類似性の検討」林業経済 69 (9), 2016.12, (2016) (2021年7月17日閲覧)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinrin/69/9/69_1/_pdf/-char/ja
参考文献4:林野庁ホームページ「森林環境税及び森林環境譲与税」 (2021年7月21日閲覧)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/kankyouzei/kankyouzei_jouyozei.html
参考文献5:林野庁ホームページ「森林経営管理制度(森林経営管理法)について」(2021年7月18日閲覧)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/keieikanri/sinrinkeieikanriseido.html
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