今月は送電線の下の草地をチョウが利用しているという調査報告から、自然界における人工物との生物の共存の可能性について考えてみたいと思います。
■送電線の下をチョウが利用
東京農工大学、東京大学およびクィーンズランド大学からなる国際共同研究チームが、人工林に敷設された送電線の下の草地を多くのチョウが利用していることを明らかにしました。送電線の下の草地はチョウの幼虫や成虫の餌が多く、周辺と比べてもより多くのチョウが利用していたそうです(参考文献1)。
■環境の変化をうまく利用したチョウ
同報告では人間活動の変化により草地の維持が難しくなる中、送電線下の連続した草地は草を主に活用する種の保存に資する可能性があることを示しているとし、チョウ以外の生物にとっても意味があるのではないかと指摘しています(参考文献2)。
■自然の生態系維持と人間活動の両立へのヒントになるか?
チョウは幼虫の時は葉を食べ、成虫になると花の蜜を吸い、植物に依存して生きています。一方でチョウはカマキリやトンボなどの餌でもあり自然界の生態系を形作るうえで重要な役割を果たしています。そう考えると送電線の下の草地は森全体の生態系に良い作用をもたらしているかもしれません。森林全体の生態系への影響やその時間的な変化などが科学的に明らかになってくると、自然と人間の活動のバランスを持続的に維持していくヒントが得られるかもしれませんね。
■まとめ
今回は送電線下の草地という意外な場所が生態系の保全に役にたっている可能性について触れました。参考文献2でも指摘していますが、様々な生物への影響が明らかになると良いと思います。チョウは食べる草や蜜を吸う花を選ぶ性質があります(参考文献3)。送電線下に生える草の種類は全国的にどうなのか気になりますね。
参考文献1:国立環境研究所環境展望台「農工大など、送電線網が創出した空間の生物多様性を評価(2021/9/3)」(2021年9月11日閲覧)
https://tenbou.nies.go.jp/news/jnews/detail.php?i=32411
参考文献2:東京農工大学「送電線下に広がるチョウの楽園~送電線はチョウの保全に貢献することを発見(2021/9/3)」(2021年9月11日閲覧)
https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2021/20210903_01.html
参考文献3:北海道開発局帯広開発建設部「チョウ類 食草・食樹別リスト」(2021年9月11日閲覧)
https://www.hkd.mlit.go.jp/ob/tisui/kds/pamphlet/ikimono/ctll1r0000004hvr.html
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