今月は、木質系バイオマス発電の普及から見えてきた課題について考察してみます。
■発電所の普及から見えてきた課題
長野県でプロジェクト開始から10年を経た木質系バイオマス発電が当初の計画通り稼働できていない状況がニュースになっています(参考文献1)。理由は同様の発電施設が全国的に増えたことや木材価格の高騰(ウッドショック)などにより燃料調達が難しくなっているためとのことです。燃料の調達や供給の対策は専門家も指摘する全国の課題と言えます(参考文献2、3)。
■継続している様々な取り組み
燃料供給の重要性はこのコーナーでも指摘してきました。2020年9月に取り上げた燃料の地産地消を促す「エネルギーの森」の活動については、燃料ポテンシャル(早生樹等)を開拓する実証事業が行われ、燃料(チップ、ペレット)の安定的・効率的な製造・輸送等システムの構築に関する実証事業や品質規格の策定なども進んでいます(参考文献4)。
■事業モデルに適した燃料調達の仕組みに知恵を出す時
バイオマス発電の事業モデルは輸入チップ・PKS(パーム椰子殻)等を燃料とした大規模発電と、未利用材を燃料とした小規模熱電併給の二つの方向に進むことや、地域の実情に即した燃料供給体制の確立が必要との指摘もあります(参考文献5)。小規模ながら発電量が14.5MWと大きい長野のような事例は燃料調達の問題が顕在化しやすかったのかもしれません。バイオマス発電の普及が加速するなか、燃料調達のための様々な取り組みを参考にし、事業モデルに適した対応が急務なのかもしれません。
■まとめ
輸入バイオ燃料に関しては、環境や人権に目を向けた国際的なFSC認証の仕組みがありますが、偽装が疑われる事案も発生しているようです(参考文献6)。既存の木質系バイオマスの証明ルール(参考文献7)を活用しつつ、見えてきた様々な課題への工夫も求められている時期であると考えられます。
参考文献1:信濃毎日新聞デジタル「〈社説〉Fパワー事業 原点に立って説明を(2023/7/11)」(2023年7月14日閲覧)
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2023071100132
参考文献2:久保山裕史「木質バイオマス発電の現状と課題」環境情報科学, 47巻2号, pp10-15, 2018年6月 (2023年7月14日閲覧)
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010922228.pdf
参考文献4:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「木質バイオマス燃料等の安定的・効率的な供給・利用システム構築支援事業(2023/6/30)」(2023年7月14日閲覧)
https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP2_100162.html
参考文献5:一般社団法人バイオマス発電事業者協会「燃料調達の仕組み・課題」(2023年7月14日閲覧)
http://www.bpa.or.jp/biomass/fuel/
参考文献6:一般社団法人環境金融研究機構「ベトナム企業によるバイオマス燃料の認証偽装問題、経済産業省は「関係業界からのヒアリング」を認めるも、「偽証燃料がFIT等に利用された事実は現時点ではない」と説明(2023/1/9)」(2023年7月15日閲覧)
https://rief-jp.org/ct10/131485
参考文献7:林野庁「発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドライン」(2023年7月15日閲覧)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/biomass/hatudenriyou_guideline.html
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