昨年11月から12月にアラブ首長国連邦のドバイで国連気候変動枠組条約第28回締約国会合(COP28)が開催されました。そこで今年もこの話題を取り上げてみます。昨年2月にはCOP27と生物多様性条約のCOP15を取り上げ、両COPを俯瞰した視点の大切さなどを記しました。今回は気候変動枠組み条約のみの開催であり、温暖化防止策を推進していくにあたっての課題を改めて考えてみたいと思います。
■COP28で決まったこと
COP28ではパリ協定の目標である産業革命前からの気温上昇1.5度以内に抑えるため「化石燃料からの脱却をこの10年間に加速する」という成果文書を採択しました。様々な議論を経て「脱却」という表現に落ち着いたそうです。また、2023年が記録上最も暑い1年になることへの懸念が示され、今のままでは「1.5度目標」は実現できないと指摘しています。その上で世界の温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロにするには19年比で30年に43%減、35年に60%減と、大幅に減らす必要性を指摘しました。発展途上国が求める対策支援基金の始動や先進国の貢献の必要性も示されました(参考文献1)。
■森林保全による温室効果ガス排出量の抑制
化石燃料の扱いが大きく報じられていますが、このコーナーで何度も触れているように温室効果ガスの排出抑制には森林の維持管理も大切です。昨年3月にはJ-クレジット制度活用例を、同4月には杉の森林のCO2吸収量の調査を紹介し、2016年1月のパリ協定締結時(COP21)には、森林の特性を考慮した温室効果ガス排出量管理やモニタリングの必要性を指摘しました。今回はブラジルのルーラ大統領が演説で、アマゾンの森林破壊の抑制への取り組みや2030年までに森林破壊を完全に終わらせる目標を示し、先進国からの支援を求めました。「トロピカル・フォレスト・フォーエバー」と呼ばれる国際熱帯雨林保護基金も提案されています(参考文献2)。
■森林保全普及への課題
森林保全の継続には経済的に回る仕組みが必要です。基金の活用に加え、温室効果ガスの排出量取引など様々な仕組みを活用することも大切です。しかし、実態を伴っていない「グリーンウォッシュ」の問題が顕在化するなど課題も多く、国際的な監視強化の動きもあります(参考文献3)。監視の強化は運用ルールを複雑にする可能性もあり、普及を妨げない知恵を絞ったルール作りが求められています。
■まとめ
温室効果ガスの排出量取引はある意味、時限的な枠組みです。例えば、長い月日がたち世の中が低炭素社会になると同じ努力でもクレジットは減ります。したがって、今は基金やクレジット制度などを様々な仕組みを活用して森林保全の動きを立ち上げ、その後の定着化ではクレジットに頼らない長期的な視野が必要だと思います。
参考文献1:科学技術振興機構「COP28、「化石燃料からの脱却」で合意 各国は危機感共有し、一層の排出量削減(2023/121/15)」(2023年12月17日閲覧)
https://scienceportal.jst.go.jp/explore/review/20231215_e01/
参考文献2:日本貿易振興機構(JETRO)「ルーラ大統領、COP28で2030年までのアマゾンなど森林破壊完全収束目標を発表(2023/12/14)」(2023年12月17日閲覧)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/12/e107103808b9823e.html
参考文献3:日本貿易振興機構(JETRO)「ジェトロ世界貿易投資報告 第Ⅳ章 持続可能な社会を目指す政策とビジネス(2023/10/3)」(2023年12月17日閲覧)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/gtir/2023/no4-1.pdf
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