今月は木製バットづくりのニュース記事から、木の利用とその資源確保について少し考えてみたいと思います。
■木製バットづくり職人の若手育成
全国で年約30万本生産される木製バットのシェア約半数を誇る富山県南砺市で、富山県外出身の若者らが希少な「手削り」バット職人として活躍しているそうです(参考文献1)。木製バットの材には主にアオダモが利用されます。日本海側に位置する富山県はアオダモの産地である九州や北海道から材を入手して加工し、関西や関東に出荷することに適し、大正時代の末期には木製バットの生産が盛んになったそうです。富山県は木工が盛んで適度な湿度が木材加工に向いていたそうです(参考文献2)。
■木製バット生産をめぐる現状
国内で作られた木製バットの材は1979 年にはほぼ全量が北海道産材でしたが、2005年頃から北米産・中国産メイプル、中国産モウソウチクへと移行し、現在は外材が約70%を占めているそうです。バット材の加工も多くが海外へ移転し始めているそうです(参考文献3)。メイプル材も古くから利用されアオダモよりしなりは弱く強靭な傾向があるようです。モウソウチクは貼り合わせて利用しますが、最近のバットは様々な材を貼り合わせることで、様々な特性を引き出せるようにしているようです。
■アオダモの育成の取り組み
アオダモは成長が遅くバッド材として利用できるようになるまで70年から80年かかり、シカの食害やササによる更新阻害などから資源の減少が危惧され、優良なアオダモを維持できるよう、さし木苗や実生苗の効率的な生産手法の開発、造林の研究、植林活動、などがなされています(参考文献4~6)。
■木製バットに潜む材の個性
削りだしの無垢の木製バットでも3トンもの力がかかっても折れないそうです。一方で、柾目打ちと板目打ちの違いがあり、板目打ちの場合に折れやすい状況となり、柾目打ちだとしなるため反発力を得られそうです。バットのしるしは柾目側にあるとのこと(参考文献7)。貼り合わせのバットは安定して様々な特性を引き出せるのだと思いますが、削り出しのバットで素材の木の個性が利用する側に伝わってくるのも味があってよいですよね。
参考文献2:(一社)南砺市観光協会「野球界を支える、バットの街・福光へ」(2025年1月16日閲覧)
https://www.tabi-nanto.jp/archives/10013
参考文献3:𦚰田健史、松下幸司「野球用木製バットの材種と流通」森林応用研究 Applied Forest Science 24 (2): 19-27 (2015)(2025年1月15日閲覧)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/applfor/24/2/24_19/_pdf/-char/ja
参考文献4:福田陽子「「国産材バット」の持続的生産に向けたアオダモの育種」, 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 林木育種センター, 林木遺伝資源連絡会誌【2017 No.2】 (2025年1月17日閲覧)
https://www.ffpri.affrc.go.jp/ftbc/iden/kaishi/2017_no2.html
参考文献5:福長絢一郎、矢島崇、玉井裕、宮本敏澄、小泉章夫、松田彊「アオダモ人工林「バットの森」の現況」(2025年1月15日閲覧)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jfsc/116/0/116_0_486/_pdf
参考文献6:吉田栄、佐藤昌弘「国産バットにつなげるアオダモの森林づくり」日高南部森林管理署(2025年1月15日閲覧)
https://www.rinya.maff.go.jp/hokkaido/kikaku/pdf/h25_23.pdf
参考文献7:加藤英雄「暮らしの中の⽊材 第13回 バット」森林総合研究所⽊材利⽤部, 所報No.139, '2000-4 (2025年1月15日閲覧)
https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/shoho/documents/139-3.pdf
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