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2025年7月 植物標本について考える

今月は110年以上前の植物の標本が見つかった記事から、植物標本について考えてみたいと思います。

■110年以上前の植物の標本が見つかる
北海道大学苫小牧研究林敷地内の森林資料館で110年以上前に採取された植物の標本300点近くが見つかり、北海道大学総合博物館への移管に向けたデータベース化が進められています。標本は東北帝国大学農科大学(後の北海道大学)の教員だった工藤祐舜と指導学生の吉見辰三郎が1914年7~9月と15年6月にそれぞれ採取、制作したとみられています。植生の変化やエゾシカによる食害などで姿を消した植物も標本化されており、当時の植生を知る貴重な資料とのことです(参考文献1)。

■工藤祐舜
明治から昭和初期における植物の標本に関しては、植物学者の牧野富太郎をモデルに2023年に放送したNHK連続テレビ小説「らんまん」(参考文献2)が記憶に新しいところですね。今回見つかった標本も同時代に採取されたものです。工藤祐舜は1909年(明治42年)に東京帝国大学理科大学(現東大理学部)に進学し、「らんまん」にも登場した松村任三のもとで植物分類学を専攻しています(参考文献3)。日本の植物分類学の創設期の貴重な記録が見つかったことになります。

■世代を超えた植生変化の分析への期待
動くことができない植物の採取情報や標本は、自然生態系の営みを知る上で、基盤となる大切な記録です。自然生態系の変化は、人間の活動に加え温暖化による気候変動の影響も加わり、顕著になっており(参考文献4)、植生の定点観察は様々なかたちで行われています(参考文献5)。この様な地道に集めた情報が100年を超えて次の世代に引き継がれ、自然生態系や生物多様性に関わるメカニズムの解明に役立つと良いですね。

■まとめ
標本はそれぞれが新聞紙に挟まれていたそうです。2023年6月にこのコーナーで紹介した牧野富太郎博士の記事で触れた「牧野新聞」を思い出しました。標本づくりに使われた新聞が戦火を逃れ保管されて近代史研究の貴重な資料になっているという話です。今回、標本と一緒に出てきた新聞の記事にも興味がわいてしまいました。


参考文献1:苫小牧民報「110年以上前の植物標本 苫小牧研究林で見つかる(2025/6/3)」(2025年6月13日閲覧)
https://news.yahoo.co.jp/articles/e74c6b205ed23626a0e5764eb02dd4e4b50be1b7

参考文献2:NHK「らんまん」(2025年6月14日閲覧)
https://www.nhk.jp/p/ranman/ts/G5PRV72JMR/

参考文献3:サードペディア百科事典「工藤祐舜」 (2025年6月14日閲覧)
https://pedia.3rd-in.co.jp/wiki/%E5%B7%A5%E8%97%A4%E7%A5%90%E8%88%9C#gsc.tab=0

参考文献4:環境省「生物多様性分野における気候変動への適応」(2025年6月14日閲覧)
https://www.env.go.jp/content/900489572.pdf

参考文献5:(財)日本自然保護協会
「モニタリングサイト1000里地調査 植物相調査(概要版)」 (2025年6月14日閲覧)
https://www.nacsj.or.jp/official/wp-content/uploads/2017/06/plant_s_manual_1_0.pdf



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