本文へスキップ

Forest Instructor Association of Japan

Newsを考察

2025年8月 ハゼノキの実から作る木蠟について考える

今月は愛媛県でハゼノキの実から作る木蠟(もくろう)を復活するニュース記事から、自然由来の素材について考えてみたいと思います。

■ハゼノキの実の油を搾った木蠟復活の動き
愛媛県の大洲市や内子町では、ハゼノキの実から油を搾ってつくる木蠟の伝統技術の復活を目指し、体感学習や植樹などに取り組んでいるそうです。木蠟は和ろうや化粧品に利用され、木蠟の生産は江戸時代後期から明治時代にかけて地域の基幹産業でした。江戸時代には大洲藩がハゼノキの栽培を農家の副業として奨励しました。しかし、大正時代に入ると価格の安い石油系の蠟に市場を奪われ、その後はハゼノキ畑が桑や果樹に植え替えられるなど、木蠟の生産量は低下していきます(参考文献1、2)。
ちなみに、ハゼノキは触るとかぶれるウルシの仲間で、秋には見事な紅葉が見られます(参考文献3)。

■多く見られた自然由来の素材から石油系の素材への代替
木蠟のように自然由来の素材が石油系の素材に代替されて地域の産業が衰退してしまう例は、絹や漆などいろいろあります。ここでは詳細は割愛しますが、各地で技術の継承や復活などの様々な取り組みが進められています(参考文献4)。

■持続可能な利用により生態系に負荷をかけない自然由来の素材
近年、生物多様性の大切さが再認識され、2022年の生物多様性条約第15回締約国会議では、生物多様性の損失を食い止め回復させていくネイチャーポジティブという概念が提唱されています。環境省が示したロードマップでは、持続可能な利用を前提に、長い年月をかけて進化・適応してきた生物は人間の技術では真似できない機能を多く持つと指摘しています。例えば、蚕からとれる絹は、通気性、吸湿性、肌触りに優れ、紫外線を低減し、役割を終えた後は自然に分解され生態系に負担をかけず、化学繊維の技術が発達しても完全に真似ができるものではないとも述べています(参考文献5)。ハゼノキの実を利用することによる、石油系の素材ではまねできない新しい価値を見つけてみてはどうでしょう。

■まとめ
石油系の素材を用いた商品の代表としてビニール袋やプラスチック製品があげられます。現在ではマイクロプラスチックによる汚染も明らかになり、素材の見直しや利用しない生活習慣への転換が進んでいます。このような社会の変化に合わせて、自然由来の素材を生かす地域に根ざした伝統的な技術に更に注目が集まり、次の世代に引き継がれる流れができるとよいと思います。


参考文献1:NHK NEWS WEB愛媛「内子町 地域を支えた伝統の木ろう作り 地元の中学生が体験(2025/6/13)」(2025年7月13日閲覧)
https://www3.nhk.or.jp/matsuyama-news/20250613/8000021794.html

参考文献2:朝日新聞「伊予の小京都の繁栄を支えたハゼノキ、復活へ 植樹に込める深い理由(2025/7/11)」(2025年7月13日閲覧、有料記事)
https://www.asahi.com/articles/AST7313KJT73OXIE03DM.html

参考文献3:はなもく散歩「ハゼノキ」 (2025年7月16日閲覧)
https://hanamokusanpo.jp/book/68562

参考文献4:農林水産省「蚕業革命」, aff(あふ)2018年2月号 (2025年7月16日閲覧)
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1802/spe1_01.html

参考文献5:環境省「生物多様性国家戦略2023-2030~ネイチャーポジティブ実現に向けたロードマップ~(2023/3/31)」 (2025年7月16日閲覧)
https://www.env.go.jp/content/000124381.pdf



バックナンバー

バックナンバーはこちらから

お知らせ
イベント
活動報告
生物多様性と子どもの森
グリーンウェイブ参加登録
土曜学習応援団
会員が書いた本
森林インストラクター地域会
Newsを考察
安全管理
サイトマップ

一般社団法人 日本森林インストラクター協会

〒112-0004
東京都文京区後楽1-7-12
林友ビル6階

アクセス


TEL/FAX  03-5684-3890    

問い合わせはこちらから