今月は屋敷林を取り上げます。このコーナーでは2023年5月に富山県礪波市散居村の屋敷林(カイニョと呼ばれている)の保全活動を取り上げ、文化的景観の維持・継承の大切さとその難しさについて触れました。今回は、日々の生活と木のつながりについて少し考えてみたいと思います。
■屋敷林の中では気温が低い
東京都西東京市にある屋敷林は毎週金曜に一般開放されているそうで、7月の強い日差しの中で気温を測定したところ、外の道路が35度であったのに対し屋敷林の中では31度で、その効果が確認できたそうです。屋敷林は家の周囲に植えられた木々で、風や土ぼこりから家を守り、日差しを遮り、古くから数多く見られました。この西東京市の屋敷林は1.1ヘクタールで、シラカシ、ケヤキ、サクラ、モミジなど計約50種、500本近い樹木が茂り、約400本の竹林もあるそうです(参考文献1)。
■屋敷林の効用
屋敷林の効用は、主に防風、防砂、防寒、防火、目隠しなどですが、近年は生物多様性の保全も担っていることがわかってきています。(参考文献2、3)。また、屋敷林という表現は明治期以降に使用されたようで、砺波市のカイニョという呼び方に加え、福島県中通り地方ではイグネ、群馬県ではカシグネなどと地域ごとに様々な呼び方があるようです。屋敷林を構成する樹種も様々で、各地で人々の生活と木が近い関係にあったことがうかがえます。家を木で囲う習慣は海外でも見られます(参考文献4)。
■屋敷林から見える人と木の関わり
長野県安曇野の事例になりますが、安曇野ではほとんどの屋敷林は人の手で植えられたもので、針葉樹も多くみられ、樹高を活かして屋根のカヤを風から守る防風林としての役割もあったようです。また、スギの葉は焚き付けに、広葉樹の枝は薪や堆肥に、スギやヒノキの材は用材に、といったように屋敷林を利用していました。加えて、屋敷林を庭園としても大切にしていたようで、今では平野部では見ることができない大経木も多数存在しています(参考文献5)。日々の生活と身近な木のつながりが見えてきます。
■まとめ
2023年5月の記事で触れたように、屋敷林を地域の人たちが協力して保全・維持していく活動は全国にみられます。また冒頭紹介した西東京市の屋敷林は定期的に一般開放されています。ぜひ、屋敷林の恵みを自分事として感じ取る機会が増えるとよいと思います。
参考文献1:読売新聞オンライン「屋敷林は「天然の日傘」、周囲より最大5度低く…ボランティアら手入れし「先人の知恵」継承(2025/8/9)」(2025年8月13日閲覧)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20250804-OYT1T50009/
参考文献2:国立研究開発法人国立環境研究所、気候変動適用情報プラットホーム「屋敷林の保全・再生(2023/10/20)」 (2025年8月13日閲覧)
https://adaptation-platform.nies.go.jp/data/measures/np-005.html
参考文献3:環境省ホームページ「生物多様性保全上重要な里地里山」(2025年8月13日閲覧)
https://www.env.go.jp/nature/satoyama/16_toyama/no16-4.html
参考文献4:石村眞一「日本の屋敷林文化に見る多様性と共通性」 (2025年8月13日閲覧)
https://sankyoson.tonamino.info/20220429ishimura.ppt.pdf
参考文献5:ふるさと安曇野 きのう きょう あしたNo.18「安曇野の屋敷林(2019/2/9)」 (2025年8月13日閲)
https://www.city.azumino.nagano.jp/uploaded/attachment/43692.pdf
〒112-0004
東京都文京区後楽1-7-12
林友ビル6階
TEL/FAX 03-5684-3890
問い合わせはこちらから