世界遺産で国宝でもある京都の平等院鳳凰堂の屋根に用いられていたヒノキ材の伐採年が年輪年代学によって明らかなったそうです。そこで、今回は年輪年代学と年輪が教えてくれることについて少し考えてみたいと思います。
■鳳凰堂における調査
平等院塔頭の浄土院では、明治の改修時に取り外された鳳凰堂の屋根材(長さ5.6m、幅35cm、厚さ3.6cm)を保管しており、その木材を奈良文化財研究所が年輪年代学を用いて調査したところ、鳳凰堂が創建された1053年の7年前の1046年に伐採されたヒノキ材ということが分かったそうです(参考文献1)。
■日本でも活用されるようになった年輪年代学
年輪年代学は木材の年輪変動を調べることにより、その木の伐採年代や枯死年代を求める学問で、年輪の形成年を1年単位で決定できる特長を持っています。日本での研究は国土が南北に長く天候の地域依存性が高いために欧米に比べ遅れていたそうですが、奈良文化財研究所の30年を超える調査と研究により、ヒノキやスギの約3000年分の暦年標準パターンが完成し、今回のような調査が可能になったとのことです。歴史の研究における世界共通の時間軸になることが期待されています(参考文献2)。
■年輪を観察すること
年輪の観察はもっと簡単に行うこともできます。筆者は解体された家屋の木材を薪として使う機会があったのですが、大黒柱と思われる柱材には明治初期の日付の墨入れがありました。ということは、「その材が育った環境は江戸時代の後期なのかな?天然の材だとすると年輪は密なのかな?」と勝手に想像したのですが、柱材の断面を見てみると年輪が疎であり驚いたことがあります。その木は松であったと思うのですが、年輪が疎ということは、江戸時代に生えていた場所は日当たりの良いところか、成長を促すようにキチンと管理された場所であったのだと思います。専門的な知識はなくても、このように年輪から昔の木の置かれた環境を想像してみることで、いろいろな気づきが生まれたりします。年輪年代学のデータベースが拡充され、誰でも簡単に様々な樹種の育っていた年代が分かるようになるとよいですね。
■将来のためにも
近年、木材建築が見直され、このコーナーでも新国立劇場(2019年5月、2018年7月)、高層建築(2018年3月)、ガソリンスタンド(2017年11月)、駅舎(2017年1月)などを取り上げてきました。建築材として安定した性能を維持するには集成材や加工材へのニーズが高いと思いますが、あえて、年輪を有する材を使い、将来に渡りずっと作った時の様子が材の中に固定されるよう、トレーサビリティ維持の仕組みを仕込んでおくことも、しゃれているかもしれません。
参考文献1:産経ニュース「鳳凰堂に1046年の木材 平等院、年輪年代で判明 2019.10.18 19:10(2019年10月18日)」(2019年10月20日閲覧)
https://www.sankei.com/photo/story/news/191018/sty1910180011-n1.html
参考文献2:奈良文化財研究所ホームページ「年輪は自然がつくりだした歴史年表」 (2019年10月20日閲覧)
https://www.nabunken.go.jp/contents/science/age.html
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